カルチャー 2025年11月24日

Text by SPARK Daily

「刑事コロンボ」へのオマージュ。オールドマンが演じる異色スパイの正体

「刑事コロンボ」へのオマージュ。オールドマンが演じる異色スパイの正体

Photo: Apple TV

名優ゲイリー・オールドマンにとって初のテレビドラマとなる「窓際のスパイ」は、すでにシーズン5を迎えている。「ハリー・ポッター」シリーズのシリウス・ブラック、「ダークナイト」シリーズのゴードン警部、そしてアカデミー賞主演男優賞を受賞した「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」など、数々の名演技で知られるオールドマンが演じるのは、英国諜報部の最下層「泥沼の家」と呼ばれる部署のボス、ジャクソン・ラム。不潔で無愛想、容赦ないパワハラを繰り出す。ジェームズ・ボンドのような華やかな英国スパイとは対極にいる男だ。だが、その鋭い頭脳と、負け犬たちの予想外の活躍が、コミカルでハート溢れるスパイドラマの傑作を生み出している。オールドマンは、なぜこの異色の役に惹かれたのか? すでにシーズン7までの製作が決定している同作の魅力を、たっぷり語ってもらった。

ジャクソン・ラムの魅力

――ジャクソン・ラムというキャラクターの最大の魅力はなんでしょうか?

もっとも楽しんでいる点のひとつは、間違いなくラムの頭脳だね。他の人より数手先を読んでいる。たいていの場合、その場でもっとも頭が切れるのは彼なんだ。だから、謎を解いていく探偵としての側面を演じるのが大好きだ。

それに、思ったことをなんでも口にする、フィルターのない人物を演じるのはとても解放的だ。実際、彼は陰気な老いぼれだ。だが、皮肉屋で、一般の人々が人生や社会を生きていくために従わなければならない社会規範をいっさい守らない。本当にありのままを言うし、人前で誰かを辱めることになんの躊躇もない。素敵な性格だとはとても言えないけれど、演じるぶんには最高だね。

――どうして彼はあんな風な振る舞いをするのでしょうか?

確かに彼には豊富な経験があるが、あの振る舞いの理由は、もうなにも気にしていないことだろうね。彼がタバコを吸うのは、おそらく政治的に正しくないからだ。オフィスで酒を飲むのも、政治的に正しくないからあえて飲んでいる。わかるかな? 彼は煽動者なんだ。

ただ、わたしは彼がそのユーモアや皮肉の多くを、スパイとしての仕事の一部として使っているように思う。

「お前には本当のわたしを理解することはできない。お前はわたしを過小評価するからな」とね。彼はあの振る舞いを超能力のように使っている。一種の防御としてね。

――なるほど。

ラムは自分の部下には厳しい。彼はこの仕事における凡庸さが自分を殺し、周囲の人々も殺すことに気づいたからだろう。

さらに、この仕事では警戒を絶対に怠らず、常に最高の状態でいなければならない。

だからこそ、ラムは部下たちを追い込む。もっと良くなるように。ただ、そのやり方が強引なんだ。そんな彼をとてもチャーミングだと思うが、それはわたしだけかもしれない(笑)。

群像劇としての魅力

――「窓際のスパイ」の面白さは、個性豊かなキャラクターたちが織りなす群像劇ですが、役者としていかがですか?

登場人物みんなが生み出す物語のダイナミクスを愛している。ラムはホーに対して特別な態度を持っている。シャーリーが好きなのは、彼女がタフで本当に自分を守れるからだ。リヴァーには可能性を見出している。きっとこの仕事で最後までやり遂げることができるだろうと信じている。

「窓際のスパイ」を楽しくしているもの、そしてわたしがこのドラマに喜んで戻ってくる理由は、個性的なキャラクターたちとそれを演じる役者たちだ。

もはや現場では家族のようになっている。そして誰かが死ぬたび——ご存知のように、原作者のミック・ヘロンは人を殺すのが好きだから——わたしは打ちのめされる。もう現場で会えなくなってしまうんだからね。

わたしにとって、この番組の圧倒的な魅力、磁力のような引力は、あのキャストと仕事をすることなんだ。

「刑事コロンボ」へのオマージュ

――ジャクソン・ラムといえば、穴の開いた靴下と、ボロボロのトレンチコートが特徴ですね。

うん。あのコートは実は「刑事コロンボ」へのわたしなりのオマージュなんだ。ピーター・フォークを俳優として愛していたからね。特にカサヴェテスの映画でのピーター・フォークが大好きだった。「刑事コロンボ」もただ見ていた。だから、レインコートを着る機会が来た時、非常に似たものを手に入れたんだ。そして今では、おそらくピーター・フォークのコートが今頃そうであったであろうくらい汚れているよ(笑)。

窓際のスパイ
Courtesy of Apple TV

――(笑)。

この作品の魅力のひとつは、普段の自分とほとんど変わらずに仕事ができることだ。これまでわたしは多くの精巧な衣装を着てきた。山のような特殊メイクを着けてきた。カツラを被ってきた。訛りを身に付けた。キャリアのなかでそういったことをすべてやってきたんだ。

でも、この作品では衣装はたったの1種類。着るのに5分もかからない。ヘアメイクに行って、彼らがわたしの髪に油を塗りたくる。そこに30分ほどいて、そして準備完了だ。5時間メイクチェアに座っているよりずっといいよ。

――「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」では、特殊メイクで完全にチャーチルに変貌されていましたね。

ああ。でも、『ハンニバル』には及ばない。あのときは6時間だったからね。

実生活でのゲイリー・オールドマン

――この作品では楽に仕事ができるとおっしゃいましたが、ラムのような厳しいボスとは対照的ですね。あなた自身は若手にどう接していますか?

若い俳優に会ったり、学生と話したりする機会がある。彼らには、わたしの子供たち――17歳の継子ウィリアムを除いてはみな成人だが――と同じように接している。わたしが使うのは、言わば、ミルクとハチミツだ。規律を重んじる暴君タイプではない。

わたしは怒鳴らないし、いじめない。人生においては、酢よりハチミツのほうが効果的だと信じているからね。ラムを演じる楽しみのひとつは、わたし自身とは違っていることだ。だから、キャラクターに隠れることができる。

わたし自身は他人の感情を傷つけることに耐えられない。劣等感を感じさせたり、不快な気分にさせたりすることには、我慢ならない。そういう振る舞いをする人々にも耐えられない。そんな人を見かけたら、「そんな口の利き方をしてはいけない」と忠告する。でも、実生活とは関係のない架空の世界でそういう人物を演じるのは、とても楽しいね。

――ジャクソン・ラムの影響をうけて、実生活に取り入れていることは?

ないな。

――逆に、あなたがラムに取り入れている要素はありますか?

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目映いほどのセクシーさをラムに持ち込んでいると思いたいね(笑)。

――(笑)。

実際にはお互いなにも交換していないな。

シリーズの未来

――では、シリーズの未来について伺います。ジャクソン・ラムとしてまだやっていない、これからやりたい冒険は何ですか?

そういう風には考えていないんだ。なぜなら、わたしは番組に影響力を持ち、創造的な意見を言うことができる。だが原作を書くのはミックだ。そこにわたしは関わっていない。

わたしたちが従わなければならないルールがひとつある。ミックが殺していないキャラクターを番組で殺すことはできない、ということだ。それだけは守らなければならない。

本は本として、わたしたちは6時間のドラマを作らなければならない。彼の祝福を得て、物語に手を加えることができる。その点で彼は非常に寛容なんだ。原作をドラマにするうえで翻案する必要があり、変更を加えなければいけないことを理解している。彼は脚本家にとても優しい。

最新巻「Crown Town(原題)」を読んだ人なら知っているだろうが、驚きの展開が用意されていて、本当に素晴らしいんだ。

だから、わたしはただミックが何を用意してくれるかを待つだけなんだ。

――先の展開はご存じないんですね。

ミックが、ラムがいつどのように死ぬか決めていることは知っている。

――えっ! 彼も殺されちゃうんですか?

ミックはそれをわたしの頭上にぶら下げているんだ。正直、そんなこと言わなければよかったのにと思うよ。

――「せめていいシーンにしてくれ」と注文してはいかがでしょうか?

まあね。でも、ミックのことだから、おそらくラムに心臓発作を起こさせて、あの臭くて腐ったイスに座ったまま死なせるんじゃないかな(笑)。

「窓際のスパイ」はApple TVで独占配信中

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