ウェルネス 2025.12.23 | Text by SPARK Daily

なぜ脂肪の摂り過ぎは危険なのか。MITが解明した肝臓細胞の「幹細胞化」

なぜ脂肪の摂り過ぎは危険なのか。MITが解明した肝臓細胞の「幹細胞化」

「脂肪の摂り過ぎは体に悪い」。誰もが知っている常識だが、なぜ悪いのか、細胞で何が起きているのかは、実はよく分かっていなかった。MITの研究チームが初めて解明したメカニズムは、細胞の「生存戦略」という意外な視点を浮かび上がらせた。

漠然とした「常識」が、初めて細胞レベルで証明された

高脂肪食が肝臓に悪い。脂肪肝から肝硬変、そして肝がんへ。この流れは医学的に確立されている。しかし、細胞レベルで「何が起きているのか」は、驚くほど分かっていなかった。

MITの研究チームは、単一細胞RNA解析という技術を使い、高脂肪食を与えたマウスの肝細胞を追跡した。炎症、組織の瘢痕化、そしてがん化へと進行する過程で、どの遺伝子がオン・オフになるのかを時系列で記録した。

12月22日にCell誌に掲載された論文が明らかにしたのは、肝臓細胞が高脂肪食というストレスに対して、驚くべき「生存戦略」を取るという事実だった。

肝臓細胞が「幹細胞化」する:生き延びるための選択

高脂肪食にさらされた肝細胞(ヘパトサイト)は、未成熟な幹細胞のような状態に「逆戻り」する。正常な肝機能を担う遺伝子——代謝酵素や分泌タンパク質を作る遺伝子——をオフにし、代わりに細胞死を回避し、増殖しやすくする遺伝子をオンにする。

「これは本当にトレードオフなんです」と、MIT医工学研究所(IMES)所長のアレックス・シャレックは言う。「細胞は、ストレスの多い環境で生き延びるために、個々の細胞にとって有利なことを優先します。しかし、それは組織全体がすべき仕事を犠牲にしている」

肝臓は本来、解毒や代謝といった重要な役割を果たす。しかし、高脂肪食という長期的なストレスにさらされると、肝細胞は「組織のために働く」ことをやめ、「自分が生き延びる」ことを選ぶ。短期的には合理的な選択だ。だが、その代償は大きい。

なぜ「幹細胞化」が危険なのか

未成熟な幹細胞のような状態になると、細胞は増殖しやすくなる。そして、変異が起きたときに、がん化しやすくなる。

「これらの細胞は、がん化するために必要な遺伝子をすでにオンにしているんです」と、MIT大学院生のコンスタンティン・ツアナスは説明する。「成熟した細胞としてのアイデンティティを捨て、増殖能力を高めている。だから、もし間違った変異が起きたら、もうレースは始まっています。がんの特徴をすでに先取りしているんです」

つまり、高脂肪食は細胞を「がん化の下準備が整った状態」にする。変異はランダムに起きる。しかし、変異が起きたときに、すでに増殖しやすく、細胞死を回避する能力を持った状態であれば、がん化は加速する。

研究チームはまた、この「幹細胞化」を制御する遺伝子も特定した。その1つが、甲状腺ホルモン受容体だ。興味深いことに、この遺伝子を標的とする薬は、すでにMASH線維症(重度の脂肪肝疾患)の治療薬として承認されている。別の遺伝子(HMGCS2)を活性化する薬も、現在臨床試験中だ。

さらに、研究チームは転写因子SOX4も特定した。これは通常、胎児の発育時にのみ活性化し、成人の肝臓では働かない遺伝子だ。しかし、高脂肪食にさらされると、再び活性化する。

20年かかるプロセス、だからこそ逆転可能

マウスは1年ほどで肝がんを発症した。しかし、人間では、このプロセスは約20年かかると研究チームは推定している。個人差はある。食生活、アルコール摂取、ウイルス感染といった他のリスク要因も影響する。

しかし、20年という長い時間は、希望でもある。研究チームはいま、通常の食事に戻したり、GLP-1作動薬(オゼンピックやウゴービといった減量薬)を使用したりすることで、高脂肪食によって引き起こされた変化を逆転できるか研究している。

「私たちはいま、新しい分子標的と、生物学的メカニズムのより深い理解を手にしています」と、シャレックは言う。「これにより、患者の予後を改善する新しいアプローチが得られるかもしれません」

Source: news.mit.edu ほか

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