カルチャー 2025.12.04

Text by SPARK Daily

ウィキペディアで最も読まれた記事、2025年版。世界と日本では何が違う?

ウィキペディアで最も読まれた記事、2025年版。世界と日本では何が違う?

2025年、世界中で最も読まれたウィキペディアの記事は「Deaths in 2025」。4億4000万ビューという圧倒的な数字だ。2位以下には選挙、映画、スポーツ選手が並ぶ。しかし、このランキングが映し出すのは、単なる「人気トピック」ではない。人類が共有する、ある種の関心の構造だ。

世界が読んだトップ記事の全貌

ウィキメディア財団が12月2日に公表したデータによれば、英語版ウィキペディアで2025年に最も読まれた記事は「Deaths in 2025(2025年の死者)」で、4億4000万ビューを記録した。2位は「Donald Trump(ドナルド・トランプ)」で3億3500万ビュー、3位は「2024 United States presidential election(2024年アメリカ合衆国大統領選挙)」で2億8600万ビューだった。

他の言語版を見ても、共通するテーマが浮かび上がる。スペイン語版では「Deaths in 2024(2024年の死者)」が1位、フランス語版では「2024年フランス議会選挙」がトップだった。政治、死、エンタメ、スポーツ。これらが、2025年に世界中の人々が「調べたい」と思ったトピックだ。

興味深いのは、各言語版で独自の関心事項が反映されている点だ。ドイツ語版では「ドイツ連邦議会選挙」、イタリア語版では「サンレモ音楽祭」(イタリア最大の音楽祭)がランクインしている。ウィキペディアは、グローバルな関心と地域の文脈が交差する場所なのだ。

なぜ人類は「死者リスト」を読むのか

4億4000万ビュー。この数字は、単なる好奇心では説明できない。

「Deaths in 2025(2025年の死者)」は、その年に亡くなった著名人を時系列で記録するページだ。俳優、ミュージシャン、政治家、スポーツ選手。彼らの死は、ニュースで報じられ、SNSで追悼され、そしてウィキペディアで記録される。人々はこのページを訪れ、誰が亡くなったのかを確認する。

これは、喪失と記憶の儀式とも言えるだろう。有名人の死は、個人的な悲しみではないかもしれない。しかし、それは世代を超えて共有される文化的な瞬間でもある。ウィキペディアは、その瞬間を記録し、人々が立ち止まって振り返る場所を提供している。

ウィキメディア財団の調査によれば、ウィキペディアの編集者たちは2025年に2億回以上の編集を行った。その多くは、新しい出来事を追加し、情報を更新するためのものだ。「Deaths in 2025(2025年の死者)」もまた、リアルタイムで更新され続けるページのひとつだ。誰かが亡くなるたびに、誰かがそのページを編集する。そして、世界中の人々がそのページを読む。

一方、日本は「デジタルツール」を調べていた

日本語版ウィキペディアのトップは、まったく異なる顔ぶれだ。

1位は「ChatGPT」で1719万ビュー。2位は「YouTube」で1426万ビュー、3位は「Instagram」で963万ビューだった。トップ10のうち5つがデジタルサービス名だ。「Google」(8位)、「X」(9位)も含まれる。

世界とのギャップは明白だ。英語版で4億4000万ビューを記録した「Deaths in 2025」は、日本語版のトップ10には入っていない。代わりに日本人が調べていたのは、毎日使っているかもしれないツールの名前だ。

興味深いのは、これらが「使い方」の記事ではなく、サービスそのものの説明ページである点だ。ChatGPTの使い方を知りたいのではなく、ChatGPTとは何かを知りたい。YouTubeの操作方法ではなく、YouTubeという企業の歴史を知りたい。日本人は、デジタルツールの「正体」を調べていた。

唯一、世界と共通するトピックもある。「ドナルド・トランプ」(4位、905万ビュー)と「2024年アメリカ合衆国大統領選挙」(5位、889万ビュー)だ。米国政治への関心は、日本でも変わらず高い。

そして10位には「大谷翔平」(759万ビュー)が入った。2024年のドジャース移籍、結婚、MVP受賞。日本人にとって、彼は「調べる価値のある人物」だった。

Wikipediaが映す「知りたいこと」の地図

ウィキペディアは、世界の関心の鏡だ。英語版が「死者リスト」を読み、日本語版が「ChatGPT」を読む。この違いは、文化的背景による情報ニーズの違いを映し出している。

しかし、共通点もある。人々は、知らないことを知りたがっている。有名人の死であれ、AIツールの正体であれ、ウィキペディアはその入り口だ。

2026年、私たちは何を調べるのだろうか。

Source: wikimediafoundation.org ほか

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