ビジネス 2025年11月14日

Text by SPARK Daily

「体験を売る」ワイナリー。郊外撤退、都市で急成長

「体験を売る」ワイナリー。郊外撤退、都市で急成長

アメリカを代表するワインの名醸地ナパバレーやソノマの試飲施設(テイスティングルーム)が次々と閉鎖されるなか、サンフランシスコやサンタクルーズの市街地には新業態が登場している。郊外から都市への移動が、米ワイン業界の構造を変えつつある。新興ワイナリーが売るのはワインではなく、「体験」だといえるだろう。結果、小規模生産者は前年比14%の訪問者増を記録した。

大手が撤退、小規模が急成長

2024年、米国のワイン産地全体では訪問者数が5.1%減少した。特に国際観光客は15%減と大きく落ち込んでいる。

しかし、生産規模別に見ると、まったく異なる風景が浮かび上がる。年間生産量1,000ケース未満の小規模ワイナリーでは訪問者が14%増加した。一方、50万ケース以上の大規模生産者では16%減少している。

この差は、テイスティングルームの形態の違いから生まれている。

従来型の「予約制・高額・ワイン中心」モデルが機能不全を起こすなか、新しいスタイルが台頭している。

高額化と政治リスクが客足を遠ざけた

従来型モデルの衰退には、明確な理由がある。

ナパバレーのテイスティング料金は、2012年以降200%上昇した。現在の平均は81ドル。リザーブテイスティングは128ドルに達する。2019年時点では平均30.50ドルだった。

宿泊費も急騰している。ナパバレーの平均ホテル料金は1泊412ドル。高級施設では1,000ドルを超える。2012年には279ドルだった。

食事や交通費を含めると、ワインカントリーへの旅は数千ドル規模になる。同じ予算なら、ヨーロッパのワイン産地を訪れることができる。実際、イタリアのテイスティング平均料金は20ユーロだ。

さらに、政治的要因が追い討ちをかけた。トランプ政権の移民政策により、国際観光客が米国を避けている。最大の観光客源であるカナダからの訪問者は、前年比32.4%減少した。

高額化と政治リスクの二つが、従来型テイスティングルームから客を遠ざけることになった。

都市に移動するテイスティングルーム

新業態の第一の特徴は、立地の変化だ。

ヒールズバーグのマーサ・ストゥーメンは、ブドウ畑から離れた市街地に店舗を構えた。夜遅くまで営業し、自社ワインだけでなく、他の小規模生産者の商品も扱う。パソロブレスのデセミルも、ダウンタウンに新施設をオープンした。

サンタクルーズのビッグ・ベイスンは、山間部の本拠地に加え、市内にタパスバーを兼ねたテイスティングスペースを開設している。

郊外の「目的地」から、都市の「立ち寄り先」へ。この移動が意味するのは、客層の拡大だろう。予約なしで気軽に訪れ、ワインだけでなく食事や他の飲料も楽しめる。参入障壁を下げることで、新しい顧客を取り込んでいる。

バー、レストラン、そしてコミュニティスペース

第二の特徴は、複合化だ。

ロサラモスのクレメンタイン・カーターは、ワイナリーというよりバーに近い。自社ワインに加え、シャンパーニュやクラフトビールも提供し、隣接する醸造所とキッチンを共有している。

マーサ・ストゥーメンが目指すのは「女性起業家のハブ」だ。彼女が使う言葉は「第三の場所」——自宅でも職場でもない、人が集まる場所。

ワインは、もはや主役とは言えないだろう。ワインを飲みながら人とつながり、新しい発見をする。その「場所」こそが商品になりつつある。

ゴートヨガ、野球、サーフボード交換会

第三の特徴は、体験イベントだ。

ミシガンのブラック・スター・ファームズは、農場のヤギと一緒に行う「ゴートヨガ」を導入した。結果、訪問者数は20%増加した。オカナガン・ヴァレーのレイクサイド・セラーズは、ブドウ畑でヨガを開催している。

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カリフォルニアのバレット・ヴィンヤーズは、畑で野球の試合を主催する。サンタクルーズのマッドソン・ワインズでは、サーフボード交換会が開かれる。

ソノマのベンジガー・ファミリー・ワイナリーは、バイオダイナミック農法のブドウ畑をトラクターで巡るツアーを実施し、訪問者数を10%伸ばした。

ミシガンのシャトー・シャンタルは、星空観察イベントを追加し、ノンアルコールワインとモクテルもメニューに加えた。ワインを飲まない客も歓迎する姿勢だ。

これらのイベントに共通するのは、「SNSで共有したくなる体験」であることだ。ヤギとヨガをする写真、畑で野球をする動画。ワインの味ではなく、その場にいたという記憶が、集客を生んでいる。

「ワインを売る」から「場所を売る」へ

ヴァージニアのアーリー・マウンテン・ヴィンヤーズは、予約制度を廃止した。草原でのカジュアルなテイスティングで新規顧客を獲得する一方、7コースのシェフズテーブル体験で熟練者も満足させている。

幅広い客層に対応する。それが新しいモデルの核心だ。

シャトー・シャンタルの社長マリー=シャンタル・ダレーズは言う。「訪問者はワインを飲むためだけに来るわけではない。農業コミュニティを体験し、新しいことを試すために来る」

この言葉が、転換の本質を表している。

テイスティングルームは、ワインを売る場所から、人が集まり体験を共有する場所へと変わりつつある。そして、その結果としてワインが売れる。

彼らが変えたのは商品ではなく、売り方だった。

Source: wineenthusiast.com ほか

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