テクノロジー 2025年11月17日

Text by SPARK Daily

「紙の地図」だけで砂漠2000km。米国で最も過酷な「女性限定ラリー」

「紙の地図」だけで砂漠2000km。米国で最も過酷な「女性限定ラリー」

GPS禁止、スマホ没収、紙の地図とコンパスだけで2000km超を走破――。このラリーが問うのは、テクノロジーへの依存だけではない。女性限定、環境配慮型運営。常識を覆す3つの「禁止」が、モータースポーツの未来を映し出している。

米国最長、2000km超のオフロードラリー

レベル・ラリー(Rebelle Rally)は、2016年に始まった米国最長の競技型オフロードラリーだ。カリフォルニアとネバダの砂漠を舞台に、8日間で2000km以上を走破する。このラリーは一般的なレースとは根本的に異なる。

スピードを競うのではなく、ナビゲーションの精度を競う。2人1組のチームは、地図上に記された座標を正確に読み取り、複数のチェックポイント(明示されたものと隠されたもの)を探し出さなければならない。車両は4×4クラス(ジープ・ラングラー、フォード・ブロンコなど)とX-Crossクラス(ホンダ・パスポート、BMW X5など)の2つに分かれ、大規模な改造は必要ない。むしろ、「Bone Stock賞」(無改造賞)という部門があるほど、車両性能よりも人間の判断力が重視される。

3つの「禁止」が生む極限の挑戦

このラリーを特別にしているのは、3つの徹底した「禁止」だ。

第一に、GPS禁止。競技者は紙の地図、コンパス、スケール定規だけを使う。ナビゲーターは毎朝5時に起床し、その日の20以上の座標を地図上に手作業でプロットする。この作業には高度な集中力が求められる。

第二に、スマホ没収。8日間、参加者は携帯電話を預け、完全にオフラインで過ごす。車両に搭載されたGPS機能も、ヒューズを抜くか、アンテナを取り外すか、画面を物理的に覆うことで無効化される。

第三に、サポートクルー禁止。砂漠で車両がスタックしても、外部からの助けは来ない。2人だけで回復用のマックストラックス・ボードを使い、脱出しなければならない。

唯一のハイテク要素は、イエロー・ブリック・トラッカーだ。これはイリジウム衛星システムを使い、競技者の位置情報をリアルタイムで運営側に送信する。1998年から稼働するイリジウムは、低軌道衛星通信の先駆けであり、各衛星は最大4つの他の衛星と通信できるため、遅延がほとんど発生しない。

しかし、このトラッカーの使用には高いリスクが伴う。チェックポイントに到着した際、ドライバーはボタンを押して現在地を送信するが、チェックポイントから離れた場所で誤ってボタンを押すと「ワイドミス」ペナルティが科される。4秒のカウントダウンがあるが、判断ミスは即座にスコアに反映される。

女性限定という選択

レベル・ラリーは、創設時から女性限定の競技として設計された。これは単なる差別化戦略ではない。モータースポーツ業界において、女性の参加率は依然として低く、特にオフロードラリーのような過酷な競技では顕著だ。

このラリーで重視されるのは、速さではなく精度と判断力だ。砂漠の真ん中で、地図を読み、地形を分析し、最適なルートを選択する能力。物理的な力よりも、戦略的思考が勝敗を分ける。

2025年の第10回大会には、多様なバックグラウンドを持つ女性たちが参加し、その技術と判断力を競い合った。

水素と太陽光で動くベースキャンプ

競技者がアナログ技術に依存する一方で、ラリーの運営側は最先端のクリーンエネルギー技術を採用している。

リニューアブル・イノベーションズが提供するモバイルマイクログリッドは、ソーラーパネルと水素燃料電池を組み合わせ、最大750kWhの電力を供給する。早朝5時、真っ暗な砂漠のなかで、ナビゲーターが地図を見るための照明、スターリンクを使ったYouTubeとフェイスブックライブ配信、熱いシャワーと調理設備。すべてがこのシステムで賄われる。

さらに、授賞式ではトヨタのTRD燃料電池発電トラック・タンドラが登場した。このトラックは、クアンタム・フューエル・システムズが開発した特殊なタンクから水素を受け取り、80kWの電力を生成。三相の産業グレード電力として、大型スクリーン、マイク、照明を駆動する。フォックス3.0リモートリザーバーショックと35インチのニットータイヤを装備し、過酷な地形でも移動可能だ。

砂漠の真ん中、最寄りの町から160km離れた場所で、ディーゼル発電機の騒音は一切ない。

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ローテクで勝つ

2025年大会で、エメ・ホールとケンドラ・ミラーのチームは、2025年型スバル・クロストレック・ウィルダネスでX-Crossクラス3位に入賞し、1区間で勝利を収めた。

このクロストレックは、電子制御を最小限に抑えたシンプルな車両だ。アダプティブサスペンションもなければ、車高調整機能もない。スチールスプリングを使い、エアバッグは採用していない。Xモードがトラクションコントロールを調整できるが、低速時のみ有効で、実際に使用したのは数回だけだった。

最も過酷な区間は、カリフォルニア州グラミスの砂丘地帯だ。深い穴が隠れた柔らかい砂を突破するには、勢いが鍵となる。アクセルを踏み続け、パドルシフトでCVTを高回転域に保つ。スタックしたのは1回だけで、マックストラックス・ボードを使って5分で脱出した。

唯一のGPS技術は外部オドメーター(走行距離計)だ。モニットシステムとテラトリップシステムの2台を搭載し、故障に備えた。これらはGPSアンテナを持つが、正確な距離測定にのみ使用される。隠されたチェックポイントを25メートル以内で探し当てるには、この精度が不可欠だ。

1位はスバル・フォレスター・ハイブリッド、2位はBMW X5が獲得したが、シンプルなクロストレックも十分に戦えることを証明した。

アナログ技術が示す可能性

レベル・ラリーは、過度なテクノロジー依存へのカウンターとして機能している。GPS衛星が障害を受けた場合、あるいはサイバー攻撃で電子システムが無効化された場合、紙の地図とコンパスを使えるスキルは生存のための武器となるだろう。軍事訓練で依然として地図読みが重視されるのも、同じ理由だ。

同時に、このラリーは環境配慮とモータースポーツの両立モデルを示している。水素と太陽光で運営されるベースキャンプ、化石燃料に依存しないイベントインフラ。エンターテインメントとサステナビリティは、対立するものではない。

2026年の第11回大会に向けて、レベル・ラリーはさらに進化を続ける。GPS禁止、女性限定、クリーンエネルギー運営。この3つの「異端」が示す方向性は、モータースポーツの新たな選択肢として注目されるだろう。

Source: Ars Technica ほか

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