10月25日、パリのノートルダム大聖堂で異例の結婚式が行われた。新郎は王族でも皇族でもない。屋根の再建に3年を捧げた大工、マルタン・ロレンツだ。800年前と同じ手法で斧を使い梁を削り、昼夜を問わず働いた男に、パリ大司教は「一度限り」の許可を与えた。
炎に包まれたノートルダム
2019年4月15日、世界は息を呑んだ。
パリのノートルダム大聖堂が炎に包まれた。12世紀から800年以上パリを見守ってきた尖塔が崩れ落ち、屋根構造が焼失した。セーヌ川沿いに集まった人々は、涙を流しながら祈りの歌を歌った。
フランスの象徴が失われる。多くの人がそう思った。
しかし、フランスのマクロン大統領は宣言した。「5年以内に再建する」
800年前の技術を再現
再建プロジェクトには、500人の職人が参加した。そのなかの一人が、マルタン・ロレンツだ。彼は仲間の職人たちとともに、3年間屋根構造の再建に取り組んだ。
彼らの仕事は単なる修復ではなかった。800年前と同じ方法で、梁を斧で切り出すという伝統工法を選択したのだ。
電動工具を使えば早い。彼らはあえて手作業を選んだ。ノートルダムの精神を、技術を、そのまま受け継ぐために。
マルタンは昼夜を問わず働いた。すべてのピースが大聖堂の頂上で組み立てられるまで、彼は手を休めなかった。
そして、2024年12月、ノートルダム大聖堂は再びその扉を開いた。
「一度限り」の許可
再建作業が進むなか、マルタンは長年の夢を抱いていた。
「ノートルダムで結婚式を挙げたい」
しかし、ノートルダム大聖堂での結婚式は、誰にでも許されるものではない。過去には王や皇帝が式を挙げた、世界で最も象徴的な大聖堂の一つだ。一般市民が挙式を挙げることは、ほぼ不可能だった。
それでもマルタンは、パリ大司教モンシニョール・エルルに許可を求めた。
大司教の答えは「はい」だった。
ただし、「一度限り」という条件付きで。
3年間、魂を込めて大聖堂を再建した男への、敬意だった。
500人が見守った結婚式
2025年10月25日、土曜日。
大聖堂を訪れる観光客の群衆のなかで、マルタンとジェイドは誓いを交わした。
ゲストは500人。その多くは、マルタンと共に再建に携わった職人仲間だった。
式の終わりには、観光客たちが新郎新婦に拍手を送った。そして職人たちは、手に斧を持って名誉の護衛を作った。
斧。それは彼らが3年間、ノートルダムの梁を削り続けた道具だ。その斧で、彼らは仲間の門出を祝福した。
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「私の愛を、世界中と分かちあいたい」
マルタンは語った。
「私の愛を、私たちの愛を、世界中と、それを必要とするすべての人と分かち合いたい。これは私の人生で最も幸せな日だ。他に何も言えない」。
ノートルダム大聖堂は、800年以上の歴史のなかで、多くの物語を見てきた。
王の戴冠式。皇帝の結婚式。祈り。そして炎。
いま、新しい章が加わった。大聖堂を愛し、再建に魂を捧げた一人の大工の、愛の物語だ。


